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『烈士と呼ばれる男』中村彰彦

……ついで三島の遺体に隣りあう位置に、必勝がやはり上半身裸になって正座した。これもためらいなく切腹した必勝が、

「まだまだ」

「よし」

 と二度までも声を掛けるのを待ち、古賀は一刀のもとに介錯に成功していた。

「介錯のあと、先生と森田さんの首をそろえ、合掌すると、知らず知らずに涙が出た」(古賀調書)

 すでに益田総監は猿轡をゆるめられていたため、

「介錯するな」

「とどめを刺すな」

 と叫びつづけていた。……『烈士と呼ばれる男』(中村彰彦/文春文庫)より抜粋

 

【コメント】当時もマスコミでは報じられることのなかった、三島由紀夫自決の壮絶なシーンです。副題に『森田必勝の物語』とあるように、本書は三島ではなく森田に焦点を据えて綴られています。かつて私は、ある原稿を書くための資料として事件当日の朝日新聞夕刊を取り寄せましたが、そこには二つの首の並ぶ写真がありました。事件の顛末は語れても、三島の真意を代弁する人は、この世にはいません。