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『ほんまにオレはアホやろか』水木しげる

……こういうふうに土人と仲よくなるということは、実はかなりめずらしいことらしい。ブンメイ人の方でも土人の方でも、おたがいに何か警戒心のようなものをいだくのだ。ぼくのように、初対面で心が開き、ニコリとなるなんていうことはよほどのことなのだ。

 こうして、ぼくはヒマがあると、土人たちの村へ遊びに行くようになった。

 やがて、わずか十五、六歳のエプペに夫がいることを知っておどろいた。内心、エプペとなら結婚してもいいと思っていたので、これにはがっかりした。しかし、それ以外には、がっかりするものは何もなかった。反対に、すばらしいことばかりなのだ。

 とにかく、土人たちの生活は精神的に豊かで充実しているのだ。ブンメイ人のせかせかした生活がばかばかしくなってくる。……『ほんまにオレはアホやろか』(水木しげる、講談社文庫)より抜粋

 

【コメント】小人物の私が、この本にコメントなどできるはずがない、そんな気になります。水木さんは戦地となった南の島で片腕を失くしたが、絶望するでもなく、土人たちと仲よくなり、村ではパウロと呼ばれたらしい。30年後、その島を再訪し、往時の土人たちと再会し、歓待される場面を読むと、海風と土の匂いが私の鼻をつつきます。愛すべき傑物、水木しげるさん。